隠れ名盤コレクション 【Part2】
SOULTRANE'S 隠れ名盤コレクション
〝隠れ〟と書いたのは、余り知られていないという意味ではなく、
俗に言う〝オシャレな名盤100選〟とかには絶対入らないアルバムの事です。
要は「本物のジャズメンが、本当のジャズを、本気で演奏しているアルバム」
という事に尽きるのですが、トッププロと言われるミュージシャンでも、
これが意外と少ないのです。
全てのアルバムが、そのレベルをクリアしてるなんて人は、
マイルスとコルトレーン位しかいないんじゃないか? と思われます。
独断と偏見に満ちているかもしれませんが、
コアなジャズの紹介という点で、皆さんのジャズライフを、
少しでも楽しくするヒントにして頂ければ幸いです。
■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.11
エルビン・ジョーンズ&リチャード・デイビス「ヘビー・サウンズ」 1968年作
・エルビン・ジョーンズ(ds,g)
・リチャード・デイビス(b)
・フランク・フォスター(ts)
・ビリー・グリーン(p)
ジャケットの二人がキメてる、もとい喫ってるのは何だ?
どう見てもモク(たばこ)とは思えんが。
だとしたらこの撮影の後二人ともブタ箱行きだしな…、
などと妄想がどんどん広がる、なんともヤバくてカッコいいジャケット。
ジャズ界広しと言えど、このエルビンとリチャードのコンビほど、
〝重い、黒い、ウマい〟という裏吉野屋的美辞麗句がハマる、
リズム・セクションは無いだろう。
しかもタイトルがマンマ〝ヘビ-・サウンズ〟だと。
かつてガッツ石松が、
天才ボクサーロベルト・デュランとの世界タイトル・マッチで、
ボッコボコにされた後〝ガードした上から打たれてもクラクラした〟
とインタビューに答えてたが、〝音圧の強さ〟という点で、
エルビン&リチャードはヘビー級ボクサー並だろう。
しかも重い上にスピード感も桁ハズれときたら、
我ら農耕民族リズムの日本人は敵う訳がない。
1曲目〝ローンチィ・リタ〟、しかし、やっぱこれカタギの演奏じゃないな…。
エルビン実兄サド・ジョーンズ(tp)が亡き後、
カウント・ベイシー楽団を引き継いだフランク・フォスターが、
こんなド迫力の武闘派テナーとは思わんかった。
そのフォスターの名曲、
〝シャイニー・ストッキングス〟でのエルビンのブラシは、
受験研究社〝自由自在・ブラシ編!〟みたく、教科書の様なプレイ。
子守歌を通り越して、
ニューオリンズの葬式みたいな〝サマータイム〟、
スゲーいかしてるエルビンのギター・プレイが聴ける
〝エルビン・ギター・ブルース〟、
〝あっ、ビックリ〟のブラシの連打で始まる
〝ヒアズ・ザット・レイニー・デイ〟など、
いかにこのメンツが常識に捕らわれず、
〝自分達のジャズ〟を謳歌しているかが、よく分かる。
名盤!
■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.12
エルビン・ジョーンズ「ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード 」 1968年作
・エルビン・ジョーンズ(ds)
・ジョージ・コールマン(ts)
・ウイルバー・リトル(b)
・ハンニバル・マービン・ピーターソン(tp〝ミスター・ジョーンズのみ〟)
モロ私事で恐縮だが、
私がその昔一番最初に買ったジャズ・アルバムです。
12才からロックにハマり、酒を飲み、煙草を吸い、
ケンカに明け暮れた日々を送ってきた筆者が、
いつからかドラムに憧れ、やっとこさ辿り着いたのが、このLPだった。
「ミュージック・ライフ」やら「ニュー・ミュージック・マガジン」で、
当時自分のアイドルだったロック・ドラマー
(ジョン・ボーナム、イアン・ペイス、カール・パーパーなど)
のインタビューを読むと、
彼らの尊敬するドラマーは全てジャズ・ドラマーだった。
いわくバディ・リッチ、ジョ-・ジョーンズ、
マックス・ローチ、アート・ブレイキーetc…などなど。
その時は、中学生には余りに敷居が高かったので、
漠然と〝ジャズのドラムってのは、そんなにスゲエのか?〟
と思った位だった。
晴れて高校生になり(しかし、よく中学卒業できたと思う)、
ほとんど最強の不良だった私は15才から〝ジュク〟(新宿)で飲み歩き、
当時創刊した雑誌〝ロッキング・オン〟の渋谷氏などが通ってた、
ロック・バー〝サブマリン〟などにタムロしてたが、
昔の新宿はやたらジャズ・バーも多かった。
(女の子とのデートなど常連を気取って〝DUG〟などで飲んでた)
〝ロッキング・オン〟は私のバイブルだったが、
紀伊國屋書店でたまたま横に並んでた、
〝JAZZ〟という雑誌を買ってしまったのが運のツキ、
じゃなくて運命の始まりだった。
そこに掲載されてたこのアルバムの広告の
〝怪しさ〟に目が釘付けになった。
エルビンがタバコ(ではねえと思うが?)をくわえ、
ドラムを叩いている一枚のスナップ。
これが、その後の人生を決めちまうとは、まさか思わんかった。
〝う~む、エルビンってのはエレエかっこいいな、
一つ買ってみるべえか?〟と思い、
当時地下にあった新宿ディスクユニオンで、
恐る々々このアルバムを手に取った。
今や日本ジャズ界を代表するドラマー本田珠也氏が以前、
〝最初にエルビンを聴いた時、それ迄聴いてたツェッペリンのボンゾと同じフィールを感じて全く違和感が無かった〟
と語ってたが、筆者も、
〝ワケわからんが、メチャ熱くて、なんか惹かれるサウンドだな〟
と言うのが最初の印象だった。
今聴き直しても、
全盛期のエルビンの鬼気迫るドラミングを実に良くとらえた一枚。
特に冒頭の〝バイ・ジョージ〟や〝ミスター・ジョーンズ〟などは、
当時いかにこの人が人間離れした、
〝怪物ドラマー〟だったかが如実にわかる。
最初からとんでもないモン聴いちゃったな…と今でも思う。
でも、これで良かったのだ。
ジャズ・ドラムを真面目にやろうと思って更正できた様なモンだから。
エルビンと、全ての出会いに改めて謝謝!
■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.13
ソニー・スティット「シッツ・イン・ウィズ・オスカー・ピーターソン・トリオ」 1959年作
・ソニー・スティット(as&ts)
・オスカー・ピーターソン(p)
・レイ・ブラウン(b)
・エド・シグペン(ds)
何年か前、〝東京ジャズ地図〟(交通新聞社刊)のインタビューで、
〝マスターにとって、棺桶にまでも入れていきたいほどの名盤は何ですか?〟
(…しかし、スゲエ質問だな?)ちゅうコーナーがあって、
これでエエかと答えてしまった、私的ぶっちぎり愛聴盤。
一曲めの〝I Can't Give You Anything But Love〟のスティットのソロなど、
一音漏らさずフレーズを歌えるほど聴きまくった。
とある高名なプロの前で、この鼻歌を口ずさんでたら、
「マスター、絶対アルト演った方がいいよ!」と真顔で言われて、
思わず〝ドン・キホーテ〟の教則ビデオ付アルト・サックス
¥29,800(ニッキュッパ)を買っちまうとこだった。(バカだ!)
A面がアルト、B面がテナーと吹き分けてるが、
〝それって反則でっせ!〟とレッドカードを上げたくなるほど両方ウマイ!
アルトの音のなんとも艶のあるふくよかさ、
朗々としたテナーの音の豊かさはホントうっとりしてしまう。
バックを固めるピーターソン・トリオも心憎いほど、さりげなく、
しかも緻密なバッキング。
個人的にこのエド・シグペン(ds)のシンバル・レガードは、
ジャズドラム最高峰の一つだと思う。
カモメが空から降りて来て、翼を止めて、
海面ギリギリを疾走してるかのような、
軽やかだが、重厚で、スピード感溢れるレガード!
また最小限の音数で、最高のスィングをもたらす、
スネア&バスドラのフィル・イン。
全ドラマーの模範となる演奏だ。
このアルバムはエリントンではないが、
〝スィングしなきゃ意味がない〟を地で行ってる名盤だね。