隠れ名盤コレクション 【Part1】

SOULTRANE'S 隠れ名盤コレクション

〝隠れ〟と書いたのは、余り知られていないという意味ではなく、
俗に言う〝オシャレな名盤100選〟とかには絶対入らないアルバムの事です。

要は「本物のジャズメンが、本当のジャズを、本気で演奏しているアルバム」
という事に尽きるのですが、トッププロと言われるミュージシャンでも、
これが意外と少ないのです。

全てのアルバムが、そのレベルをクリアしてるなんて人は、
マイルスとコルトレーン位しかいないんじゃないか? と思われます。

独断と偏見に満ちているかもしれませんが、
コアなジャズの紹介という点で、皆さんのジャズライフを、
少しでも楽しくするヒントにして頂ければ幸いです。



■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.1

The Song Book

ブッカー・アービン「ザ・ソング・ブック」
1964年作

・ブッカー・アービン(ts)
・トミー・フラナガン(p)
・リチャード・デイビス(b)
・アラン・ドーソン(ds)


〝オール・ザ・シングス・ユー・アー〟〝ジャスト・フレンズ〟
〝ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ〟などスタンダードが目白押しですが、
本物の硬派のジャズメンが揃えばこうなるのか?
というお手本の様なアルバムです。

一人々々の自己主張が凄まじく、しかも俺がオレがのエゴが全く無く、
全てが楽曲を引き立てる為に統合されているという、恍惚感溢れるアルバム。

個人的にはベースのリチャード・デイビスの生涯最高のプレイだと思います。
(まだ生きてるって!)



■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.2

Trident


マッコイ・タイナー「トライデント」
1975年作

・マッコイ・タイナー(p)
・ロン・カーター(b)
・エルビン・ジョーンズ(ds)


すごいジャケットだ。
〝太陽にほえろ〟の裕次郎のおもむきがある。

絶対ジャケ買いしないアルバムのトップ10だ。
(もちろんワースト1はアート・ブレイキーの〝モーニン〟だ)

中ジャケのアフリカ民族衣装をまとったエルビンもすごい!
猫科の大型獣のたたずまいであられる。何という手の大きさ…。
マズイ!このままだとジャケ批評で終わってしまう。

個人的に、コルトレーン亡き後のマッコイのアルバムで最も好きな一枚。
〝エンライトゥンメント〟〝アトランティス〟で築いた様式美を、
そのままトリオに移行したアルバムだ。

しかし、この〝ワンス・アイ・ラヴド〟。
このオシャレなジョビンの名曲を、どんだけコテコテに演るのかこのトリオ!

津波のようなマッコイのピアノに絡みつく、
エルビンのサンバかアフロかよくわからんドシャドシャのタイコ。

今時のジャズでこういう演奏は聴けなくなったと思うのは僕だけだろうか?
やはりジャズは寸止めじゃつまらない。

そして圧巻の〝インプレッションズ〟。
まず、この出音。。。わからん。
いきなりでっせ、3人一斉に〝バーン!〟(パープルではない)と。
これを聴くだけで、このアルバムを買う価値があると思ってしまう。

ついでにロン・カーターのソロも不気味で気持ちがよい。

〝ランド・オブ・ザ・ロンリー〟
ジャズがジャズらしかった最後の時代のレクイエムにも聞こえるが、
自分はコルトレーンの遺志を継承して生きていく、
というマッコイの静かな覚悟を感じさせてくれる名曲。



■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.3

Way Out!

ジョニー・グリフィン「ウェイ・アウト!」
1958年作

・ジョニー・グリフィン(ts)
・ケニー・ドリュー(p)
・ウィルバー・ウェア(b)
・フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)


う~む、カッコいい…。
ジャズを聴き始めて2枚目位に買ったLPなので、
かれこれ37年位経つが、今だにカッコいい…。

と言うことは、やはりバリバリの本物だという事に尽きる。

親友のデクスター・ゴードンに「女好きの大酒飲み」と言わしめた、
(アンタに言われたくないってか?)
リトル・ジャイアントことジョニー・グリフィンのリバーサイド時代の名盤。

タイトルも良い、〝ウェイ・アウト!〟でっせ。
(どこかのマスターの人生の様だ)

オランダの彫刻家Naum Gaboのジャケットも素晴らしい。
青雲の志の趣きがある。(龍馬か?)

まず1曲目〝Where's Your Overcoat, Boy?〟
このハードボイルドなカッコよさ!

侠客だ。何でこんなに堂々としてるんだろ?
バックもすごい。(後姿ではない)

まだギラギラしてた頃のケニー、
コテコテの名手ウィルバー、
水を得た魚のようなフィリー!
(こんなに叩きまくるフィリーも珍しい。よっぽど気分良かったんだなー)

そして、本命の〝チェロキー〟。
かのクリフォードの〝スタディ・イン・ブラウン〟の同曲が、
フツーに聴こえるほどこの演奏はぶっ千切りにスゴイ。

テンポ360超(!)でなんで、
こんな全員自由自在に音で遊べるのか?

ハード・バップの一流の職人たちの、
とんでもない演奏能力の高さを見せつけられる一曲。

ぜひ御一聴の程を。



■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.4

Night Train

オスカー・ピーターソン「ナイト・トレイン」
1962年作

・オスカー・ピーターソン(p)
・レイ・ブラウン(b)
・エド・シグペン(ds)


最も音数が少なく、最もスロウな曲が多いにもかかわらず、
最高にスイングしているピーターソンの超名盤。

ミディアム・スロウ・4ビートのまさにバイブルのような名演。

ジャズを志す全てのミュージシャンは、先ず、
10回聴く×3セット、がノルマとなります。(ホントよ!)

信じられん事に、
その昔こんなマッ黒ケなフィールのピーターソンやガーランドが、
批評家先生に〝カクテル・ピアノ〟のレッテルを貼られていたが、
さしずめ、これなど〝おう、うちらの演奏つまみに酒飲むとうまいやろ、
四の五の言わず聴けっちゅーの!〟
という威勢のいい啖呵が聞えてくるようなアルバムだ。

どの曲も素晴らしいが〝ナイト・トレイン 〟〝バグズ・グルーヴ〟の
レイ・ブラウンとシグペンのグルーヴに舌を巻く。

これぞブルース(全11曲中6曲ブルースだ)、
これぞ〝タメ〟の美学のきわみ。

やっぱジャズとお金はタメなきゃアカン。(違うだろ!)

P.S うちにいらした御客様は皆御存知だが、店から電車がよく見えるので、
OPEN時、店名を〝ナイト・トレイン〟にしようか迷ったけど、
〝東京ナイト・クラブ〟みたくなるのでやめました。



■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.5

マンハッタン・ショーケース

西条孝之介「マンハッタン・ショーケース」
1980年作

・西条孝之介(ts)
・小川俊彦(p)
・稲葉国光(b)
・清水潤(ds)


感涙! 筆者が若かりし頃、とても御世話になり、
リスペクトしていた先輩方の最高の演奏がCD化しました。

日本ジャズ史上5指に数えられるだろうテナー奏者、西条さん。
ジャケットのマンマです。

粋も辛いも知り尽くした、モノホンの大人のジャズ。

絶妙なサウンドのバランス感覚、サジ加減が素晴らしい!

今時、スコット・ハミルトンやハリー・アレンでもこうはいかん、
是非、若いかたにも聴いて頂きたい。

当時スタジオでも高名で、荒井由美のファースト・アルバム
〝ひこうき雲〟などでも演奏してらっしゃいました。

私の師匠、小津昌彦氏が全幅の信頼を寄せていたおヒゲのピアノの
小川さん、いつもウィスキーの水割りをおいしそうに飲まれてましたね…。

この当時、とても恰幅が良く、大仏サマのイメージだった稲葉さん、
うちのお店でも時々出演して頂いてます。

そして、私が30年前、六本木にあった〝ボディ・アンド・ソウル〟で、
とても可愛がって頂いた清水潤さん!(キンさん)

戦後の日本ジャズ界を切り拓いた名ドラマー。
ダンディーという言葉がこの方ほど似合ったジャズメンを私は知りません。

笑顔がとても素敵で、スーツ姿に開襟シャツ、
という出で立ちが、とってもオシャレでした。

お若い時、様々な御苦労をなさったとお聞きしましたが、
本当に優しい方でした。

御自身のドラミング・スタイルを完璧に確立されていて、
シンバル・レガートの音の粒立ち、美しさが素晴らしく、
ドライヴ感溢れるブラシ・ワークは神技のようでした。
(当時、既にナイロン・ブラシを愛用してらした!)

このCDを聴いて、自分は本当に良き先輩に恵まれていたと思います。

御恩を少しでもお返しできるよう、
これからも、お店とドラムに精進させて頂きます。 

感謝!



■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.6

Conversation

ミシェル&トニー・ペトルチアーニ「カンヴァセーション」
1992年作

・ミシェル・ペトルチアーニ(p)
・トニー・ペトルチアーニ(g)


泣ける。

ジャケットを見ただけで泣かされるアルバムなど、このCD位ではないか?
(別の意味で、情けなくて涙が出るジャケットは、ゴマンとあるが)

トニーの、我が子ミシェルを見つめる慈愛と優しさに満ちたまなざし、
〝やっと、親父に恩返しできたよ〟と誇らしげに含羞むミシェル。

マズイ、全然文章が先に進まん。

そのような思い入れを差し引いても、
全ペトルチアーニのアルバムで最も好きな一枚。

全曲素晴らしいが、何と言っても、
〝オール・ザ・シングス・ユー・アー〟にトドメを指す。

〝次元が違う〟とは、こういうピアノプレイの事を言うのだろう。

まずこのイントロ。
この一音々々のピアノのタッチの凝縮された密度の濃さ!

フツーのピアニストは小節単位のフレーズで曲の流れを形造るが、
この人は〝音一発〟で全部持ってっちゃう!
という掟破りの荒技を得意とする。

しかも、テーマに雪崩れ込む前の、
嵐のような一拍半フレーズを聴けば如実に分かる通り、
リズムの感性が尋常でない!

エバンス~コリア~ハンコックという、
歴代のリズム・マスター的ピアニストの正統な王位継承者。

この音(タッチ)とリズムの完璧な合体が、
かのハンセン&ブロディの〝世界最強タッグ〟の様に、
他の追随を許さない、圧倒的力量差となってそびえ立つ。

またトニー・ペトルチアーニのギターにも刮目させられる。

これ程のミュージシャンだから、ミシェルをここ迄育てられたのか、
としみじみ納得できる素晴らしいプレイ。

しかし、この二人のデュオは、父子という枠を遙かに凌駕し、
何か〝魂の解放〟というか、
森の胞子が風に舞って縦横無尽に飛翔するかの様に、
〝自由に心のまま演奏する(=生きる)〟とはこういう事か?
という一つの理想郷を啓示してくれている。

改めて合掌。

P.S ミシェル・ペトルチアーニは1999年永眠。
このCDは彼の死後リリースされた。



■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.7

Piccolo

ロン・カーター「ピッコロ」
1977年作

・ロン・カーター(p・b)
・ケニー・バロン(p)
・バスター・ウィリアムス(b)
・ベン・ライリー(ds)


こういったコーナーで、このアルバムが紹介されるのは、
恐らく初めてではないかと思われる、
隠れ名盤そのもののようなアルバム。

全ては一曲目〝サグワーロウ〟に尽きる。

ロン・カーターという非常に理知的でクールなベーシストが、
一回こっきり自分という人間の思いのたけを、
全てカミング・アウトしたような音絵巻。

ピッコロ・ベースを使用したライブ・アルバムも、
この一枚が最初で最後なので、
いかにロンが完全燃焼したかがよく分かる。

クラシックを志したが、
黒人がゆえに挫折せざるを得なかったロンの青春の光と影が、
そのまま物語になったような曲。

ピアノはケニー・バロン、素晴らしい!

この人でなければ、この表現はできない。
(曲もバロン作曲だ。バロン吉元ではない)

バスター・ウィリアムス、ロンの一番弟子。

師匠の無念さを晴らすような男気溢れるベース・ランニング。
ステキだ。

艱難辛苦を経て、人生の春夏秋冬をこよなく愛でる
ロンの笑顔が曲と重なる。

しかし、このアルバムは発売当時人気なかった。

ピッコロ・ベースがキワモノに見られたのと、
一曲々々が長すぎる(この曲もLP片面全部だ)為と思われるが、
先に記した通り、ロンの私小説的アルバムなので、
この長さは必然だった。

筆者は、どうもオシャレで耳に優しいジャズよりも、
こういうモロ人間臭いジャズに惹かれる傾向にある。

〝キレイで正しい〟コトよりも、
〝ドン臭いけど面白い〟コトの方が好きなんだろーね。
(子供かオマエ?)



■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.8

イージー・リヴィング


ソニー・ロリンズ「イージー・リヴィング」
1977年作

・ソニー・ロリンズ(ts,ss)
・ジョージ・デューク(kb)
・チャールス・イカルス・ジョンソン(g)
・ポール・ジャクソン(b)
・トニー・ウイリアムス(ds) 他


プロ・アマ含めて、
色々なジャズ・ミュージシャンと他の音楽ジャンルの話をしても、
プレスリーやビートルズは〝絶対アカン〟と言う人は多いが、
何故かスティービー・ワンダーを〝絶対アカン〟と、
面と向かって言う人に会ったためしがない。

それだけ、ジャンルを越えて尚、
万人を納得させるだけの音楽性を持った人なんだろう。

そのスティービーの最も有名な曲の一つ〝イズント・シー・ラヴリー〟を、
ジャズ界ノーテンキ、もとい自然&楽天主義派代表の、
ソニー・ロリンズがまるで自分の曲の様に吹きまくる大名演。

スティービーが最初に授かった子供(アイシャ)の誕生を祝って
歌った名曲だが、原曲の何ともホンワカした雰囲気とか、
赤ん坊の泣き声まで録音したスティービーの感極まった喜び様を、
そのままテナーで表現しきったロリンズは、やはりスゴイ!

楽器で〝歌う〟という点において〝ジャズ史上比類なし!〟
と誰もが認める不世出の鬼才だ。

他のメンバーもメチャハマってる。
(と言うか、どうやって集めて来たんだ?)

チョーファンキーなイントロのジョージ・デューク(100回聴いてもカッコいい)、
シャッフルなのに何気に凄い裏ワザ出しまくりのトニー。
(後半のロリンズの超ロング・トーンに呼応するバスドラ6連打をマネして、
脚がつって椅子から落っこった記憶がある)

チャールス・イカルス・ジョンソンのホントにいかれてるギター、
この一曲だけ参加で〝♪アナタのお名前何てーの?〟
みたいなリズムが最高のビル・サマーズのコンガ。

他6曲中3曲がロリンズのオリジナルだが、これがまたGOOD!

珍しくソプラノ・サックスを2曲吹いてるが、
楽器を変えても全く違和感がない。

多分口笛吹いても同じフィールが出ると思われる、
やっぱ変だなこの人は。

ロリンズもスティービーも、万人に愛される大らかさと、
優しさを共有してるのだろう。

リスナーを幸せな気持ちにしてくれる至上の贈り物(ギフト)だね、
こういう音楽は。 どうもありがとう。



■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.9

バラード&バートン


アン・バートン「バラード&バートン」 1969年作

・アン・バートン(vo)
・ルイス・ヴァン・ダイク(p)
・ジャック・スコルズ(b)
・ジョン・エンゲルス(ds)
・ルディ・ブリンク(ts)


「ジャズ・ボーカルをホントに好きになったのは最近です」
なんて言うと〝アンタ何年ジャズの店やっとんの?〟
とお叱りを受けるだろうが、本当だから仕方がない。

これにはちゃんと(?)理由があって、
知ってる人は皆御存知だが、
筆者は元々ロックで生き方を覚え、
楽器(ドラム)をジャズで覚えた人間なので、
精神的なバックボーンは完璧にロックなのです。

しかも、全ジャンル女性ボーカル史上、
最高にして最強のジャニス・ジョップリンと、
〝レッド・ツェッペリン〟のロバート・プラントが命!
だったので、昔からジャズ・ボーカルだけは、
〝何チャラチャラ歌っとんねん?〟というイメージしかなかったのだ。
(ゴメンね!)

唯一例外が破天荒でヤバイ匂いぷんぷんだったアニタ・オディ姐と、
このオランダの歌姫、アン・バートンだった。

私のドラムの師匠小津昌彦氏が、
アンの日本ツアーによく同行してた事も影響してるが、
何と言っても、この人の〝声色〟に魅了させられた。

その持ち味を最も如実に表現したのが、
1曲目〝A Lovely Way To Spend An Evening〟だ。

この声の深み! あらゆる経験を経て辿り着いた、
聴き手を何とも力強く包み込むような優しさ。

この人は、その美貌とは裏腹に相当波瀾万丈な人生だったと聞いている。

語りかけるような落ち着いた歌声の中に、
余分な事を全て削ぎ落とした〝凄み〟を感じさせられる。

他全曲素晴らしいが〝シャドー・オブ・ユア・スマイル〟など、
この人の為に作曲された曲か?と思ってしまうほどの見事さ。

若くしてこの世を去ったアンが私に、
〝それぞれのジャンルに、それぞれの良さがあるのよ〟
と教えてくれた一枚。



■ SOULTRANE'S 隠れ名盤 vol.10

Pat Metheny Group

パット・メセニー「パット・メセニー・グループ」 1978年作

・パット・メセニー(g)
・ライル・メイズ(p)
・マーク・イーガン(b)
・ダン・ゴットリーブ(ds)


音楽がもたらしてくれる〝遙かへ〟とか、
〝彼方へ〟といったフィールが大好きだが、
良くも悪くもブルース&ジャズは音楽自体人間臭いので、
中々そういうイメージの音がない。

唯一、コルトレーン、キース・ジャレット、チック・コリアなどが、
曲によってその雰囲気を醸し出してるか?と思われるが、
アメリカの遙かなる地平線と青く澄みきった空を表現する為に、
生まれて来たようなギタリストが一人おる。

そのパット・メセニーの初期の代表作。

雑誌のジャズ・ギター特集に、よくパットが取りあげられてるが、
〝それって違うだろ?〟と思ってしまう。

ぶっちゃけ、この人はジャズ・ギタリストではない!
(言い切ってしまって良いと思う)

この人の音楽は、
ジャンル分けが無意味な〝パット・メセニー・ミュージック〟
という独立国家の様相を呈している。

30年前コテコテのモダン・ジャズばかし聴いてた筆者にとって、
このアルバムの音は〝目からウロコ〟だった。

ジャズというジャンルに、
カントリー、ロックンロール、グリーングラスなど、
様々なアメリカの伝統音楽を混ぜ合わせ、
鍋に入れて何日も煮込んで、最後にアクを丁寧にとったのが、
メセニーの音楽だろう。

新しい時代が来て、新しい風が吹くとはこういう事か?
とオン・タイムに感じさせられたもんだ。
(ECMのとんでもなくクリアな録音も含めて)

先ず1曲目〝サン・ロレンツォ〟(同名のメチャうまいワインがある)、
この透明感。

第一期最強メセニー・グループの完成型。

この曲をこれだけのレベルで演奏できるミュージシャンがよく揃ったもんだ。

だが、このアルバムの真骨頂は、
3曲目(LPのB面)からの怒濤の4連チャン!(パチンコではない)にある。

マーク・イーガン(b)とダン・ゴットリーブ(ds)は、
フュージョン史上最高のリズム・セクションの一つだろう。

名曲〝ジャコ〟でのマークのベース・ソロ!
こんなにメロディアスで歌いまくるエレベなど聴いた事がない。

そして、ダンのしなやかこの上ないドラミング。
(この人は、ジョー・モレロの高弟だ)

パットの生涯のパートナーとなるライル・メイズの美しすぎるピアノプレイ。

ネイティブ・アメリカンの自然と一体になった生き方と、
アメリカのフロンティア精神が融合した叙情詩のようなアルバム。